百人一首に秘められた言霊の奥秘!
百首正解
山口志道=著 實方直行=解説 A5判 並製
4,180円(本体3,800円+税10%)
●「水穂伝」の山口志道が小倉百人一首の各首について詳細に解説した稀書。志道自身の直筆をそのまま木版に彫ったもので、また挿絵も志道が描いたものでそれだけでも貴重である。また巻末には『安房先賢遺著全集』に所収の活字版もあわせて収録したので、江戸時代の木版本読解の格好のテキストにもなる。
●本書は純然たる言霊学の書ではないため『言霊秘書』には未収録であったが、実は一種ごとに言霊学にもとづく独特の解釈がなされている点できわめて重要な資料である。
●たとえば、持統天皇「春過ぎて夏来にけらし白たへの衣干したり天の香具山」を論じては、「アマの香具山」とは「アマは雲根火山、耳梨山と云ふことなり」とし、なんとなれば「ウネビヤマの反(かえし)はアであり、ミミナシヤマの反(かえし)はマである。故にアマの香具山とは三山のことを指す」とするなど、言霊学の重要なキーとなる「反(カヘシ)」の生きた応用が示される。
また通説では「夏来にけらし」は「夏がきたようである」と推量の意味に解されるが、山口志道によれば、「ケラシ」の「ラシ」の反(かえし)は「リ」であり、「夏来にけらし」は「夏来にけり」つまり「夏が来た」という過去形であり、そこには「疑」(推量)の意味はないとし、「水穂伝に委しくあり」と註せられている。実際に「水穂伝」をあたってみると『言霊秘書』295頁に「ケ二続くラシハ、疑ニハ非ズ。ラシノ反リニシテ、ケリト云コトナルヲ、延テケラシト云ナリ」とある。
また中納言家持「かささぎのわたせる橋におく霜の白きをみれば夜ぞふけにける」を論じては、カササギのカは火を宰る伯(いき)であり、火に幸いますをことを火幸幸(カササギと云い、紫宸殿にはカササキの名があること、紫宸殿という文字の由来はサキの反はシでありこれを重ねたシシに霊合する文字を当て紫宸殿と号したとするなど、百人一首の一首ごとに秘められた玄意を言霊学を縦横無尽に駆使して明らかにしていく。
●このように本書は、万人になじみのある「百人一首」の解釈を通じて、言霊の応用を示した希有なテキストであり、『言霊秘書』『岡本天明・口語訳 水穂伝』と参照しながら読めば、自ずと山口志道の言霊学のエッセンスが身につくのである。
●また山部の「田子の浦にうち出でてみれば白妙(しろたへ)の富士の高嶺に雪は降りつつ」の「田子の浦」は赤人が上総国山辺郡出身であることなどを根拠に安房勝山の田子の海岸であるとするなど総じて従来の通説に疑義を呈していることが本書の特色である。